ホーム » 2016 » 9月 » 07

日別アーカイブ: 2016年9月7日

成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部 を改正する法律

成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部 を改正する法律
衆議院のサイト(案になっているが)

今年の10月13日から施行される。
あと約1ヶ月後。
民法改正点。

これについて、前に話を聴いたことがあったので、その内容や私見を簡単にまとめてみました。
違うところもあるかもしれませんが、あくまでも施行前の現段階での私見です。

1 郵便物等について(民860条の2、860条の3)
家庭裁判所は、成年後見人がその事務を行うに当たって必要があると認めるときは、成年後見人の請求により、信書の送達の事業を行う者に対し、期間を定めて、成年被後見人に宛てた郵便物又は民間事業者による信書の送達に関する法律第2条第3項に規定する信書便物を成年後見人に配達すべき旨を嘱託することができるものとする。
その期間は、6ヶ月を超えることができない。

2 成年被後見人死亡後の成年後見人の権限(民873条の2)
成年後見人は、成年被後見人が死亡した場合において、必要があるときは、成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、次に掲げる行為をすることができるものとする。ただし、第3号に掲げる行為をするには、家庭裁判所野許可を得なければならない。
一 相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為
二 相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る)の弁済
三 その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為(前二号に掲げる行為を除く)

(1) 郵便物等について
成年後見のみ。
保佐、補助の場合は認められない。
成年後見人は、郵便物等の配達を受ける必要がある場合、家庭裁判所に対して、この申立てをすることになる。
配達の期間は6ヶ月のみ。
更新規定はないので、これを継続したい場合は、再申立てをすることになろうが、この場合の必要性の要件は厳格になると思われる。

今は、成年後見人宛てに郵便物の転送をすることは認められていない。
成年後見人が把握した関係者に対して、成年後見人宛てに郵便物等を送付してもらうよう依頼しているだけである。
それが、半年ではあるが、成年後見人宛てに郵便物等が配達され、それを開いて見ることができるようになった。

成年後見人は、就任した後に成年被後見人の財産を調査して管理すべき財産を把握して、財産目録を提出しなければならない。
郵便物等の中には、財産に関するものもあるだろうから、成年後見人宛てに郵便物等が配達されるようにされれば、成年後見人は、管理すべき成年被後見人の財産をきちんと把握できることになる。
このことは、要件にいう必要性に該当すると思う。

なので、もしこれを利用するとしたら、成年後見人に就任して初回の財産目録を提出するための財産調査のときだろうか。

そうして把握した関係者に対しては、書類は成年後見人宛てに送ってもらうよう依頼することになろう。

(2) 成年被後見人死亡後の成年後見人の権限
これも成年後見のみ。
必要なとき、相続人の意思に反することが明らかでない、という場合に、相続財産を相続人に引き渡すまでの期間のみの権限。

相続財産の保存に必要な行為(保存行為)とは、財産の現状を維持する行為で、他の共有者に不利益にならない行為とされている。
具体的には、家屋の修繕、消滅時効の援用、期限の到来した債務の弁済等。

不在者財産管理人の権限は、保存行為(民28条、103条)となっていて、今回の改正条文のように、特定財産、その他財産というように分かれてはいない。

一方、成年後見人の権限においては、特定の財産の保存行為とその他相続財産の保存行為と分けらた(その他とは、特定財産以外の全体という意味だろうか)。
そして、後者について家庭裁判所の許可が必要となったが、弁済期の到来した債務の弁済については、家庭裁判所の許可は不要となった。
弁済期の到来した債務の弁済は、本来相続債務として相続人がすべきものであるが、これを成年後見人が弁済しても、これによって相続人に不利益になる可能性は少ないので、家庭裁判所の許可は不要となったのだろうか。
弁済期の到来した債務とは、成年被後見人の生前に発生した債務で支払い時期が到来したもののことで、例えば、水道光熱費、入院費、公共料金、施設利用料等のこと。

成年後見人が成年被後見人の火葬・埋葬するときには、家庭裁判所の許可が必要になった。
なので、成年後見人が成年被後見人の火葬・埋葬をするときは、家庭裁判所に許可申立てを行う必要がある。
従って、成年後見人が成年被後見人の火葬をしなければならない場合は、家庭裁判所の許可を得てから、葬儀社に依頼をすることになる。

しかし、実際は、遺体の引取りの関係上、亡くなったらすぐに葬儀社に依頼をするので、家庭裁判所の許可を条件に葬儀社に火葬の依頼をすることになろう。
なので、家庭裁判所への成年被後見人の火葬許可の申立ては、どうしても、葬儀社への依頼後になってしまうと思われる。

この申立てをする場合、死亡診断書と葬儀の見積書等を添付してすることになるのだろう。
申立費用は、申立人負担という決定になるようである。



成年後見は、成年被後見人の死亡によって終了するが、財産を相続するまで事実上管理をしている。
なので、その間に、病院の費用といった生前にかかった諸費用を払ったりしている。
また、成年被後見人に身寄りがない等という場合は、成年後見人が火葬をせざるをえない。
私も、成年後見人の火葬をしたことがある。

しかし、こういった成年後見人の死後事務についての規定はなかったので、緊急処分義務(委任の終了後の処分の規定を後見で準用、民874、654)や事務管理を根拠としていた。
ある意味、あいまいなまま、成年後見人は、成年被後見人に関する死後事務を行っていた。

それが、この改正により、規定ができ、一定の権限が与えられた。
そういう意味では安心だが、これまであいまいだった点が条文化されたので、今後は、本規定に基づくことなる。

また、この権限は、必要なとき、相続人の意思に反することが明らかでない、という場合に、相続財産を相続人に引き渡すまでの期間のみのもので、つまり、超限定的な権限。
なので、基本的に、この規定の利用は慎重にして、どうしてもというとき以外は利用しない方がいいと思う。

相続人がいる場合は、基本は、相続人に全てお任せ。
遺言書があって遺言執行者がいれば、遺言執行者と相談。

相続人が不存在、あるいは、相続人はいるが非協力的な場合、この規定を使うことを検討することになろう。
この場合、火葬を成年後見人がやらざるを得ないので、家裁の許可を得て火葬をすることとなるが、相続人がいても非協力的な場合は、相続人の意思を確認しながらすることになる。
相続人不存在の場合は、弁済期の到来した債務の弁済もしてもいいかもしれないが、相続財産管理人の選任の申立てをして、相続財産管理人に任せた方がいいかもしれない。
相続人非協力の場合に弁済の到来した債務の弁済をしようとするときは、相続人の意思に反するときはできないので、相続人に意思を確認してすることになろう。
相続放棄の意向もあるかもしれないので、慎重にした方がいいだろ。
また、この場合、民918条2項の相続財産管理人選任申立てをしてもいいかもしれない。
成年後見人が利害関係人として相続財産管理人選任申立てをするときは(民918条2項、民952条1項)、上記3号の「その他相続財産の保存に必要な行為」に該当することになるので、家庭裁判所の許可が必要になる。