相続放棄の申述の有無の照会
人が死亡すると、相続が開始する(民法第882条)。
そうすると、相続人は、被相続人の権利義務を承継する。
相続人は、相続について、次の三つを選択できる。
(1)単純承認:相続人が被相続人の権利義務をすべて承継する(民920)
(2)限定承認:被相続人の債務が不明で、財産が残りそうなとき等に、相続人が相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務を承継する(民922)
(3)相続放棄:相続人は被相続人の一切の権利義務を承継しない。最初から相続人ではなかったものとみなす(民939)
相続財産は、プラス財産だけではなく、借金といったマイナス財産も含む。
なので、借金の方が多い場合は、相続したくないと思うだろう。
そういう場合に、相続放棄がある。
○相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三ヶ月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる(民915条1項)。
○相続人が第915条1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったときは、単純承認をしたものとみなす(民921条2号、920)。
○相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない(民938)。
○相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす(民939)。
というわけで、相続放棄をしようと思ったら、自分のために相続の開始があったことを知った時から原則三ヶ月以内(熟慮期間という)に、家庭裁判所(被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所)に申述をしなければならない。
また、被相続人の財産を処分(保存行為は除く)すると単純承認をしたとみなされることもあり(民921条1号)、そうすると相続放棄はできなくなるので、相続放棄をしようと思う相続人は、被相続人の財産には一切手をつけないほうがいい。
相続放棄をしたら、その者は相続人ではなくなるので、例えば、第一順位の相続人(被相続人の子供(代襲相続人も含む))が全員相続放棄したら、第二順位の相続人(被相続人の親、祖父母の直系尊属)が相続人となる。
なので、今度は、第二順位の相続人が、相続放棄をするかどうか決める。
第二順位の相続人が既に死亡していなかったり、あるいは、相続放棄をしたら、今度は、第三順位の相続人(被相続人の兄弟姉妹(代襲相続人も含む))がどうするかを決める。
ということになる。
このように、被相続人の相続人が相続放棄をしたかどうかは、他の相続人や、被相続人の債権者にとっては重要な問題となる。
相続人が、相続(単純承認のこと)したよ、とか、相続放棄をしたよ(申述受理証明書を送る)とか知らせてくれればいいが、そうじゃないと困る場合もあろう。
そういう場合に、被相続人の相続人や利害関係人は、家庭裁判所に対して、「相続放棄・限定承認の申述の有無の照会」ということができます。
これにより、相続放棄をした相続人がいるかどうかわかります。
具体的な方法については、例えば、東京家庭裁判所のサイトを参照してください。
相続の相談で、「相続の放棄をする」と聞く場合があります。
こちらからすると、相続の放棄とは上記のこと、つまり、家庭裁判所において申述することをいうので、「家庭裁判所で手続きされる(た)のですか?」と聞くと、「それはしない」、という。
では、どういうことかというと、要は、「自分は財産を相続しない、何もいらない」ということでした。もうちょっと言えば、「遺産分割協議をして、自分は何も相続しない」、ということです。
民法上の相続放棄とは意味合いが違っていますね。
同じ言葉でも、巷間言われる意味と法律上の意味が違う場合の一例といえるでしょうか。
同じように言葉に、「善意」もありますね。
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